アップライトのタッチを重くする必要性? [修理・調整]
調律にご訪問した際にお客様から「タッチを重くしてください」とご要望をいただくことがあります。
もちろん作業としては可能ですが、そのタッチ変更は果たして本当に必要な変更なのでしょうか。
では多くの場合、どのようなケースでタッチを重くされたいかといいますと、
「ピアノ教室の鍵盤が重いから、それに近くしてほしい」
この場合がほとんどです。
ご自宅での使用ピアノがアップライトピアノの場合、やはり軽く感じてしまうことが多いでしょうから理解はできるのですが、だからといって本来グランドピアノとアクション構造の違うアップライトピアノを闇雲に重くしていいものでしょうか。
レッスンスタイルによっては指・タッチの力をつけるという意味でオーダーを受けることもありますので、もちろんこの点も理解しております。
当然、鍵盤調整によって物理的に重くすることはできますが、やはりグランドピアノの鍵盤と比べてしまうと擬似的にしかなりません。
ここでは内部構造の仕組みの違いを説明いたしませんが、アップライトピアノの鍵盤をやたら重くしてもグランドピアノ特有の連打感や反応の良さ、ダイナミックレンジの広さを似せることは難しいです。
そして重要なポイントとして、グランドピアノのタッチは重くできているわけではありません。
むしろアクションの構造的にも緻密な調整を突き詰めて実施できる構造であることで、鍵盤は軽く弾けるようになっているはずです。
この時点で、無闇に“鍵盤が重いこと”が正しいといことではない、と分かります。
確かに練習しているピアノのタッチが軽すぎるようであればいけませんが、先述のとおりタッチトレーニング目的をある程度クリアできていれば、鍵盤を重くしすぎたアップライトピアノは早々に戻してあげて、本来のタッチを楽しんでいただいた方が楽器の為になります。
ピアノ学習がある程度進んでいく時点で、アップライトピアノとグランドピアノの弾き違いは体感的に理解できるようにならなければなりません。
タッチも違えば音色も違いますので、むしろそれぞれの楽器の違いを理解し楽しむことでピアノ演奏の幅が広くなると思います。
最後にそんなアップライトピアノとグランドピアノ、両方の良さを楽しめるアルバムをご紹介します。
ピアニスト"ヴィキングル・オラフソン"によるアルバム"FROM AFAR"。
2枚組のアルバムですが、1枚目をグランドピアノ、2枚目をアップライトピアノで録音しております。
それぞれ全く異なる、というよりそれぞれのピアノの良さを引き出した演奏で常に新しい魅力を発見できるアルバムです。
文:桃太郎