その音叉、間違ってませんか! [調律]
「その うがいの仕方!間違ってませんか!」だとか、
「その 枕の選び方、間違ってますよ!」だとか、
テレビを見てれば消費者・視聴者の不安を煽る文句が これ見よがしと並んでいまして、
私が今まで当然としてやってきた事が、ことごとく一家団らんのテレビタイムになし崩しに否定されて、なんだか自分自身をも否定されているようで。
毎日の晩酌が目にも心にも染みる此の頃。皆様いかがお過ごしでしょう。
いきなりですが、写真のコレを使って仕事をしております職業が、わたくし共調律師なのですが、コレは「音叉(おんさ)」という代物。
この二股に分かれてない方を手に持って、適当な物でぶっ叩き軽く叩きますと、ポ~~~~ンッと音が鳴ります。
※二股の方を持って叩きますとゴンッと鈍い音がします。(真似をしてはいけませんよ)
周波数にして「440Hz」。
ピアノでいうところ、再低音左端を1として数え49番目の音、Aの音。
回りくどい言い方をしましたが、つまり「ラ」です。
この音叉の周波数を基準にし、ピアノの調律を行います。
A=440㎐ というのは国際基準でございまして、そのなんたるやは各自それぞれWikipediaでお調べ下さい。
今回、私が申し上げたいのは・・・
「その音叉!間違ってませんかッ!!」
です。
冒頭の「間違ったうがい」と「枕」と合わせて、「音叉」まで間違ってれば、私自身本格的に年貢の納め時である。
しかしながら音叉に関しては我が職業に密着しているアイテム故、良く分かっております。
この音叉、叩けば誰でにも無償で440㎐を与え給う。
しかし、そんな万能音叉様でも、ちょっと冷やしてみたらご覧の有様。
0.6㎐、ピッチが上がってますやん!
これは由々しき問題・・・
今宵は霜月、グレゴリオ暦で11月。
日中はまだ暖かいが、朝晩は冷えるッ!!
という事で、カバンの中に放り込んでおいた音叉が、いつの間にか冷えてピッチが上昇。
これからまだまだ寒くなります故、さらに益々ピッチ上昇の一途。
そんな どこかの夫婦のようn 冷え冷えな状態の音叉を基準にしてしまったら、ピアノ自体のピッチも正確ではなくなります。※ちなみに、音叉は熱くなりますとピッチは下降します。
さらに、常温でもいつの間にか音叉が狂ってた なんて事はあります。(この場合は削って直したりしますが)
このように案外と不安定なのがこの「音叉」なのです。
という事で、最近は基準のA音に至っては音叉も使えば 機械(いわゆるチューナー)で行うケースもあります。
コンサート調律の場合でもそうですが、例えば冬場はピアノもステージも始め冷えている事があり、その場合はピッチも高めに出ます。が、ここから舞台上での照明や空調による変化が発生しますので、それに伴いピアノも変化を起こします。基準であるピッチももちろん、各音域で特徴的な変化が発生します。
それらの動きを読み取って最終的に調律がピッタリになるよう合わせていきます。
それ故に音叉といった基準になる物はより神経質になっておく必要があります。
何にしましても、各ツールの特性やピアノの変化をよく理解し考えた上で仕事に取り組む事が重要です。
さいごに、ピッチA=440㎐は国際基準ではありますが、実際のステージ、コンサートや録音の場面では
A=442㎐を使う事がほとんどです。なぜかは紙面の都合上 割愛致します。
文:桃太郎